大人の学習障害(LD)とは?学習障害の仕事での困りごとと対処法

勉強する人

学習障害(LD)とは、発達障害の1つですが、その特徴から大人になって初めて困難を抱え、診断に至ることがあります。障害が理解されにくい場合があり、職場での悩みや困りごとを一人で抱える方も少なくありません。
この記事では、学習障害(LD)のある方が職場で抱えやすい困りごとと、その対処法をご紹介します。また、学習障害(LD)のある方が長く安定してはたらくためのポイントや、支援機関についても詳しく見ていきましょう。

大人の学習障害(LD)とは

「学習障害(LD)」とは、発達障害の1つです。大人になって学習障害に気づくパターンもあり、これを大人の学習障害と呼びます。
学習障害には2つの考え方があり、教育的立場からはLearning Disabilities、医学的な立場からはLearning Disordersと呼ばれ、どちらも「LD」と略されます。なお、アメリカ精神医学会が出版した、国際的な診断基準である『DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)』では名称が変更され、「限局性学習症/限局性学習障害(SLD)」とされました。
一般的には現在も「学習障害(LD)」と呼ばれることが多いため、この記事では「学習障害」と表記します。

学習障害の特徴

学習障害とは、知能や身体の発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のいずれかを習得したり、使用したりすることが著しく困難である状態です。
個人によって困難の度合いもさまざまであることから、症状が分かりにくく、周囲から「勉強不足」「サボっている」「やればできるはず」などといった誤解をされやすいことが特徴です。

例えば「文章は読めるけれど書くことが苦手」「他の教科は理解できるのに、数学だけが分からない」など、特定の能力に対して困難を抱えることが多くあります。場合によっては「読み書き全般が苦手」のように、複数の症状が併せて現れることもあります。
学習障害の3つのタイプと特徴については、後段で詳しくご紹介します。

大人の学習障害(LD)における主なタイプと特徴

悩む男性

学習障害(LD)は、大きく「読字障害」「書字表出障害」「算数障害」の3つに分けることができます。それぞれの主な特徴をご紹介します。

読字障害(ディスレクシア)

読字障害(ディスレクシア)とは、「読む」ことに限定して困難がある学習障害です。識字障害や失読症、難読症とも呼ばれます。
「読む」ことに困難があると、並行して「書く」ことにも困難が生じることがあります。

特徴例
・どこで区切って読めば良いか分からないため、一文字ずつ区切って読む
・読んでいる箇所を指でなぞりながら読む
・「ろ」と「る」、「わ」と「ね」など、形の似ている文字を見分けることができない
など

書字表出障害(ディスグラフィア)

書字表出障害(ディスグラフィア)とは、文章を読んで理解することはできても、その内容を「書く」ことができない学習障害です。文字が鏡文字になる、余計な線や点を書いてしまうなどの症状がありますが、本人には「間違っている」という認識がないことも特徴の1つです。

特徴例
・漢字を覚えられない、覚えても忘れやすい
・誤字脱字が多い、書き順を間違える
・文字の形や大きさがバラバラで、マス目から字がはみ出す
など

算数障害(ディスカリキュリア)

算数障害(ディスカリキュリア)とは、「計算する」ことに限定して困難がある学習障害です。ただ単に「算数や数学が苦手」ということではなく、数字そのものの概念や数量の大小、図形や立体を理解することが難しいことが特徴です。
算数の文章問題のように、考えて答えに行き着く「推論」にも困難を抱えることがあります。

特徴例
・数の大きい、小さいがよく分からない
・数を数えることが苦手
・文章問題が苦手、分からない
・図形やグラフが理解できない
など

大人になって学習障害と分かるケース

学習障害は、生まれつきの障害であるため、大人になってから発症することはありません。
学習障害の診断を受けるきっかけとして多いタイミングは、小学校入学後です。「読み書き算数」の授業でついていけず、診断につながることが多いとされています。

しかし、学習障害は限られた発達の遅れであり、全般的な知的発達の遅れが見られないため、子どものころには障害と気づかないケースも少なくありません。学習障害ではなく単なる苦手科目と捉えられ、そのまま進学、就職に至ることがあります。大人になって能動的に動くことで、初めて大きな困難に直面し、学習障害と診断される方もいます。
周囲に困っていることを言えず、一人で困難を抱えている方も少なくありません。

学習障害の原因

学習障害の原因は明らかになっていませんが、脳機能の一部に何らかの障害があるのではないかと考えられています。
現在有力視されているのは、遺伝や環境などの複合的な要素に起因する可能性です。そのため「本人の努力不足」が原因ではなく、あくまで先天的な障害であるとされています。

大人の学習障害による仕事での困りごとと対処法

学習障害(LD)のある方は、仕事の中でつまずきを感じやすいポイントがあります。ここでは、仕事における学習障害の代表的な困りごとと、その対処法についてご紹介します。

文章での指示を理解できず繰り返しミスが発生する

学習障害の中でも、特に読字障害の方は、メールやチャットなど文章での指示が理解できず、ミスが生じてしまうことがあります。

対処法
・文章での指示があった場合は、自分の理解と内容が合っているか、上司と都度すり合わせを行う
・障害のことを説明し、最初から口頭で指示をもらう
・タブレットやパソコンでは音声読み上げソフトを使用する

資料や長文のメールを読むのに時間がかかる

学習障害のある方にとって、資料やマニュアル、長文のメールを読むことが難しい、もしくは時間がかかってしまう場合があります。文章の読み飛ばしや読み間違いから、ミスにつながることも考えられます。

対処法
・紙の資料であれば、下敷きや定規などで区切りながら読む
・蛍光ペンやカラーバーなどを活用して、今読んでいる箇所が分かるように工夫する
・理解が難しい言葉や考えをノートなどにまとめておく
・マニュアルを理解している方に、重要な部分が分かるようマーカーを引いてもらう
・可能であれば会議などでは録音して、あとから聞き直す

発注書や見積書の作成が困難

学習障害のある方の中には、数字や計算が苦手で「発注書の作成や概算の見積もりがうまくできない」という方がいます。
ただし「数式の意味は分からないけれど、数字の入力はできる」という方も少なくないため、機械的な操作で計算できる工夫を行うと、困りごとが解決できる場合があります。

対処法
・Excelなどの表計算ソフトでは、関数を挿入して自動計算できるようにしておく
・機械的に計算できるよう自分用のマニュアルを作る

学習障害と向き合い、はたらき続けるためには

はたらくためのポイント

学習障害のある方が長くはたらくためのポイントは、以下の3点です。

職場に自分の苦手分野を伝える

「学習障害」と言っても、その症状や困りごとはさまざまです。そのためまずは自分の得意・不得意を把握し、職場に伝えることが大切です。
自身が仕事のどのような場面で困りやすいかを把握することで、「どうしたら苦手分野をカバーできるか」という対策を立てることができます。職場と相談し、可能な範囲でツールを導入することで、苦手分野や困りごとを解消できる可能性が広がります。

報連相のルール化

学習障害のある方の中には、報告・連絡・相談に苦手意識がある方が少なくありません。「誰に、どのように報連相したら良いのだろう?」と困ってしまう場面を避けるために、相談相手や方法をルール化することをお勧めします。
上司と相談し、報告・連絡・相談それぞれの相手と方法を事前に決めておくことで、スムーズにできるようになります。

自分の特性に合った仕事を見つける

学習障害のある方にとっての「はたらきやすい職場」とは、「苦手分野の作業が少ない職場」と言えるでしょう。「聞く」「話す」「読む」「書く」「推論・計算する」といった、自分にとって苦手な作業が必要ない仕事を選ぶことが大切です。
どうしても自分の苦手とすることが避けられない仕事であれば、電子機器などのツールを活用する、周囲にフォローしてもらうなどの工夫も必要です。

大人の学習障害(LD)のための相談先や就労サポート

学習障害のある方が、仕事や就職・転職について悩みを抱えたときに相談できる窓口、支援を受けることができる専門機関は全国に設置されています。
一人で解決が難しい、専門的な意見がほしいと感じる方は利用を検討してみてください。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターとは、発達障害のある方とその家族に対し、総合的な支援を行う専門機関です。都道府県や指定都市、もしくは指定された社会福祉法人やNPO法人によって運営されています。
障害者手帳がない方でも相談することができるため、診断を受けるか迷っている方でも利用することができます。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターとは、学習障害を含む障害のある方の就労と生活の支援を行う専門機関です。職場を始め、さまざまな関係機関と連携を図り、就業と生活の一体的な支援を行うことが特徴です。
発達障害者支援センター同様、障害者手帳がない方でも利用できます。

ハローワーク

ハローワークには、障害のある方を対象にした相談窓口が設置されています。自身の特性を伝えることで、求人の紹介だけでなく、適職や働き方などについての助言や支援を受けることができます。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所とは、障害のある方が一般企業に就労するための支援を行う事業所です。一定期間通所することで、コミュニケーションスキルを身につけるプログラムなど、就労に必要な訓練ができます。さらに面接練習、履歴書作成など、就職活動のサポートも受けられるほか、就職後の定着支援も行っています。

障害者雇用

学習障害により障害者手帳の交付を受けている場合は、障害者雇用枠での就労を選択肢に入れることができます。
学習障害による障害者手帳の申請はできますが、診断の内容によっては、手帳対象の基準を満たさない「グレーゾーン」の場合があります。障害者手帳の申請を検討している場合は、かかりつけの医師に手帳が取得できそうか否かを相談してみることをお勧めします。

発達障害のある方の就職・転職相談はdodaチャレンジへ

学習障害を始め、発達障害による障害者手帳の取得は本人による意思に委ねられています。就職・転職にあたって障害者手帳を取得することのメリットは、障害者求人へ応募できることです。自身の障害について理解を得やすい環境ではたらくことができるのが、障害者求人の魅力です。安心できる環境で就労したい方はご検討ください。

dodaチャレンジでは、求職者それぞれの状況や意思、制約に配慮した個別サポートを行っています。豊富な経験と知識のあるキャリアアドバイザーが、一人ひとりと向き合いますので、発達障害が原因ではたらきづらさを抱える方は、ぜひ一度ご相談ください。

まとめ

学習障害にはさまざまな特性があり、知的発達の遅れがないため、大人になって仕事や生活の場面で困難に直面することが少なくありません。しかし、自分の特性や得意不得意を把握することで、自分にあった対処法を見つけ、工夫しながらはたらくことができます。
「向いている仕事が分からない」と悩んでいる方は一人で抱え込まず、支援機関や就労サポートの利用を検討してみてください。

公開日:2024/1/5

監修者:木田 正輝(きだ まさき)
パーソルダイバース株式会社 人材ソリューション本部 キャリア支援事業部 担当総責任者
旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社後、特例子会社・旧インテリジェンス・ベネフィクス(現パーソルダイバース)に出向。採用・定着支援・労務・職域開拓などに従事しながら、心理カウンセラーとしても社員の就労を支援。その後、dodaチャレンジに異動し、キャリアアドバイザー・臨床心理カウンセラーとして個人のお客様の就職・転職支援に従事。キャリアアドバイザー個人としても、200名以上の精神障害者の就職転職支援の実績を有し、精神障害者の採用や雇用をテーマにした講演・研修・大学講義など多数。
  • ■国家資格キャリアコンサルタント
  • ■日本臨床心理カウンセリング協会認定臨床心理カウンセラー/臨床心理療法士
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