インターセクショナリティとは?複合差別・交差性がもたらす仕事の悩みについて専門家に伺いました

インターセクショナリティ

インターセクショナリティとは、個人が持つ複数の属性が組み合わさることによって起こる差別や抑圧を理解するための枠組みを指します。中でも、「LGBTQ」や「障害者」といったマイノリティの属性が重なった場合、仕事への影響が大きくなるといわれます。 自身もトランスジェンダーと発達障害の複合マイノリティでありながら、当事者支援にも携わる特定非営利活動法人(認定NPO法人)ReBit (りびっと)(以下、ReBit)代表理事の藥師実芳(やくし みか)氏にインターセクショナリティの概念と当事者が抱えやすい仕事の悩みについて聞きました。

この記事を監修した人

藥師実芳氏

藥師 実芳(やくし みか)

認定NPO法人ReBit代表理事/社会福祉士/国家資格キャリアコンサルティング技能士2級

1989年、神奈川出身。早稲田大学大学院教育学研究科修了。自身もトランスジェンダーであることから、LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会を目指し、20歳でReBitを設立。行政/学校/企業等でLGBTQやダイバーシティに関する研修実施、LGBTQへキャリア支援提供、国内最大級のダイバーシティと就労に関するキャリアフォーラム”DIVERSITY CAREER FORUM”の開催等を行う。また、日本初となるLGBTQかつ精神・発達障害がある人たちを主対象とした障害福祉サービス”DIVERSITY CAREER CENTER”を設立。また、世田谷区、新宿区をはじめ行政で検討委員を務め、山形大学、九州大学で非常勤講師を経験。青少年版・国民栄誉賞と言われる「人間力大賞」受賞、世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ世界の若手リーダー、グローバル・シェーパーズ・コミュニティ選出、オバマ財団が選ぶアジア・パシフィックのリーダー選出。共著に「LGBTってなんだろう?」「教育とLGBTIをつなぐ」「トランスジェンダーと職場環境ハンドブック」等がある。

複合差別を理解する枠組み「インターセクショナリティ」

まずインターセクショナリティの概念、及びそれに関連するマイノリティ性について、藥師さんのお話を参考に解説します。

インターセクショナリティとは

インターセクショナリティの語源は、「交差する、交わる」という意味を持つインターセクト(intersect)で、インターセクショナリティ(intersectionality)は「交差性」と訳されます。
そして、人種、性別、社会的地位、障害の有無、性的指向、性自認といった個人が持つ複数の属性が交差することによって起こる特有の差別や抑圧を理解する枠組みをインターセクショナリティと呼びます。当事者が抱える複雑な課題や状況を可視化するための考え方ともいえます。

なかでも、「障害者」×「LGBTQ」などマイノリティの属性が組み合わさることで、より差別や抑圧が起こりやすくなります。

藥師さんは、「女性差別、人種差別といった1つの側面に注力することも必要ですが、複数の属性の交差を考慮しなければ個別の課題や事象は見えてきません」とインターセクショナリティの重要性に触れました。

複合マイノリティとは

続いて、より差別や抑圧が生じやすいとされる複合マイノリティについて、藥師さんのお話を参考に解説します。

ダブルマイノリティとは

主に2つのマイノリティがある状態を指していますが、2つ以上のマイノリティがあるという意味でも使われます。例えば、「LGBTQ」×「身体障害者」、「LGBTQ」×「外国人」などが該当します。

トリプルマイノリティとは

主に3つのマイノリティがある状態を指していますが、3つ以上のマイノリティがあるという意味でも使われます。例えば、「LGBTQ」×「身体障害者」×「外国人」、「LGBTQ」×「精神障害」×「身体障害」などが該当します。

「LGBTQ」×「障害者」、複合マイノリティによる仕事への影響

「LGBTQ」×「障害者」のダブルマイノリティは、就職や転職、就業において困難を抱える可能性が高いといわれています。藥師さんが代表理事を務めるReBitで実施した当事者へのアンケート、及び当事者を支援している藥師さんの視点を交え、複合マイノリティによる仕事への影響を考察します。

LGBTQかつ障害がある人の就職・転職の困難

ReBitが2021年5月に実施した精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査」(※)をもとに、LGBTQと障害の複合マイノリティの当事者が実際に経験した不安や困難を紹介します。
※2021年5月1日〜23日、SNS等インターネットで募集した260名に調査。障害の内訳は精神障害(約53%)と発達障害(約56%)が大半を占める

ReBitグラフ画像1

92.5%が「性的マイノリティ」かつ「障害」があることに由来する不安や困難を経験

まず、応募企業を探したり、面接を受けたりといった求職活動においては、92.5%が「性的マイノリティ」かつ「障害」があることに由来する不安や困難を経験していました。

多く見られた不安や困難の内容

  • 「各企業に性のあり方や障害への理解、安全にはたらける環境があるか分からず不安だった」(54.5%)
  • 「性的マイノリティかつ障害がある社会人のロールモデルがいなかった、もしくは少なく不安だった」(53.5%)
  • 「性のあり方と障害の両方を開示し、相談できる人・場がなかった、もしくは少なかった」(50.8%)
  • 「性的マイノリティかつ障害により、差別的言動やハラスメントを受けるかもしれないと不安だった」(43.9%)
  • 「求職活動で性のあり方と障害の両方を伝えたら、合否に影響するかもしれないと不安だった」(38.0%)

「トランスジェンダー」と「発達障害」のダブルマイノリティの当事者である藥師さんは、「複合マイノリティにより、当事者の不安や困難が多層化している」と警鐘を鳴らします。

「外資系企業や大企業を中心に、『ダイバーシティ』に注力する企業は増えています。しかし、大きな企業であるからこそ、LGBTQ施策の担当部署と、障害者雇用の担当部署が異なり、横断的な対応ができていない場合もあります。また、中小企業等では、まだダイバーシティの取り組みをされていない場合もあります。
このような状況では、複合的マイノリティであることを伝えることでハラスメントや不当な待遇を受けるのではと恐れ、職場で困難があってもそれを相談することは難しくなります。だからこそ、必然的に複合的マイノリティの存在はさらに可視化しづらく、当事者の不安や困難は二重三重に重なってしまいます」

調査では、72.8%が「ダブルマイノリティの両方を開示して応募した企業は1社もない」と回答しました。藥師さんもまた、職場で困難を抱えた経験を持つ一人でした。

「私の場合、10代の頃から男性として生活をしていますが、戸籍の性別を変更するためにはたくさんの手術が必要であるため、戸籍上の性別は女性のままです。内定後に住民票等を提出すると女性であることが知られてしまうため、トランスジェンダーであることを「隠す」ことはできないと、新卒就活のときは全社でカミングアウトしていました。そのときは、トランスジェンダーであるというだけでも内定がいただけるか不安だったので、発達障害があることは言えませんでした。

入社後はどれだけ気をつけても、遅刻や忘れ物などのADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性が出てしまい、周囲の人はそれをしらないからこそ「やる気がない」と度々指摘されたことも。誰にも相談できず、自律神経失調症になり、退職をしました」

発達障害の特性を職場に伝えることができていれば、何らかの配慮が得られたかもしれない。一方で、面接時にカミングアウトしていたら入社できなかったかもしれない。複合マイノリティの当事者は、そのようなジレンマを抱えながら求職活動をしている方も多いと藥師さんは話します。

複合マイノリティへの理解不足は行政や福祉サービスにも

また、ReBitが2023年1〜2月に実施したLGBTQ医療福祉調査2023」(※)では、行政・福祉サービス側にも複合マイノリティへの理解不足があることを示しています。
※2023年1月15日〜2月12日、SNS等インターネットで募集した1138名に調査。そのうち、41.2%が精神障害、18.1%が発達障害、3.2%が身体障害、0.9%が過去10年に知的障害を経験していると回答

ReBitグラフ画像2

障害、生活困窮に関する行政・福祉サービス利用時に78.6%が困難を経験

過去10年に、障害や生活困窮に関する行政・福祉サービス等を利用した当事者のうち78.6%が、「利用時にセクシュアリティに関する困難を経験した」と回答しました。

「支援者がLGBTQに関する知識がない等の理由から、安全に行政・福祉サービスを利用できないという状況は多々あります。また、安全な相談先の情報がないことから、必要時も行政・福祉サービス等にアクセスできないことも。安全網であるはずの、行政・福祉サービスを安全に利用できなかったことで、困難が深刻化し、病状悪化や心身不調をきたした人は3人に1人。5人に1人が自殺を考えたり、実際に自殺未遂につながったりという喫緊な状況です」

複合的マイノリティは、生活困窮や暴力被害、希死念慮等さまざまなリスクが高く、まさに行政・福祉サービスを安全に使えることが命に直結します。そのため支援者にも、インターセクショナリティの概念広がることが必要だと藥師さんは訴えました。

LGBTQや障害への理解を示す企業は増えている

藥師さんの経験やReBItの調査結果を踏まえると、複合マイノリティの当事者が抱える困難な状況は一目瞭然です。しかし同時に、国や企業のダイバーシティへの取り組みや意識は強化されています。現在のパワハラ防止法には、性的指向や性自認に関するハラスメントや、本人の同意を得ずに性的指向や性自認を第三者に暴露する「アウティング」がパワハラ行為に含まれています。

障害やアイデンティティへの理解が深い企業への転職を

企業におけるLGBTQへの取り組みは、企業のホームページ等での発信のほか、一般社団法人work with Prideが2016年に策定した評価指標「PRIDE指標」を通して確認することもできます。障害者雇用については、雇用率や制度設計などを通して企業の姿勢が見えることもある、と藥師さんは語ります。

「そのような指標を確認することで企業の取り組みを知ることができます。一方でダイバーシティに関する文化醸成には時間がかかるからこそ、指標を満たしている=はたらきやすい職場であるとは言い切れません」

企業のダイバーシティへの取り組みや文化を知るためには、ダイバーシティに関するキャリアフォーラム「Diversity Career Forum 2023」に参加することもおすすめだと藥師さんは言います。

「また、障害福祉サービスを活用しながら就活を丁寧に進めたい方には、LGBTQなど多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所(障害がある方の就活を支援する福祉サービス)もあります。さまざまな資源を活用しながら、自分らしくはたらくきっかけになることを願っています」

仕事についてお悩みの複合マイノリティの方はdodaチャレンジへご相談ください

障害者手帳をお持ちの方を対象とした転職・就職サービス「dodaチャレンジ」では、身体・精神・知的障害があり、かつLGBTQの当事者である複合マイノリティの方の転職・就職活動のご支援にも力を入れています。LGBTフレンドリー企業のご紹介にとどまらず、あなたのキャリアプランや必要とする配慮についてなど、転職・就職活動における不安や悩みを、まずはキャリアアドバイザーにご相談ください。

公開日:2023/8/15

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